第18回 オンラインレクチャー「実証のむこう――シューベルトと神学・精神分析のまじわり」
日時:8月13日(土) 19時 - 21時
講師:堀 朋平 先生
講座概要
19世紀の作曲家をめぐる研究は、近年もたいへんな広がりを見せています。なぜかといえば、教会や宮廷ではなく、市井を生きるひとりひとりが音楽活動をじかに担うようになったため、「作曲家が友人とどんな交流をもっていたか」を問いつづけることが、作曲家像をかぎりなく豊かにしてくれるからです。
とくに世紀初頭のウィーンでは印刷物が急速に普及したため、みな競って文字を書きましたし、気の合う友人との絆が社会活動に欠かせませんでしたから、作曲家と友人のまじわりは、文字化されていないものを含めて無数に存在したのです。そんな軌跡をたどろうとすると、ときに“実証”をこえたスリリングな仮説がおもわぬ効力をもつこともあります。
第一に、当時は宗教的にリベラルな風潮にあったため、正統的なキリスト教を逸した倫理も市民権をもちえました(マーラーの時代になるとそれはいっそう顕著になります)。とりわけ最大の異端にかぞえられるグノーシスの世界観が、親友を介してシューベルトに深く影響をおよぼしていました。《未完成交響曲》(D759)を例に、それを示してみたいと思います。
第二に、フロイトによって創始された学問の源流は18世紀末のウィーンにもありました。オカルトめいたものや「逃れられない心の傾向」をめぐる精神分析の語彙は、シューベルトの音楽、さらにはその人生を考える際にも大きな助けとなるでしょう。「反復強迫」(フロイト、1919年)の語を手がかりに、ハイネの詩による《ドッペルゲンガー》(D957-13)に焦点をあわせます。
神学と精神分析――そもそも正答をもたない2つの学問によって、作曲家研究がゆたかな広がりをもつことを示してみたいと思います。
講師:堀 朋平 先生 略歴
住友生命いずみホール音楽アドバイザー、国立音楽大学ほか非常勤講師。東京大学大学院博士後期課程修了(文学博士)。専門は美学・音楽学。著書『〈フランツ・シューベルト〉の誕生――喪失と再生のオデュッセイ』(法政大学出版局、2016年)、編著『バッハ キーワード事典』(春秋社、2012年)。訳書に、近代の音楽観をダイナミックにたどるボンズ『ベートーヴェン症候群』(共訳、春秋社、2022年)など多数。他分野と交わる“ひらかれた”音楽研究をめざしつつ、レクチャーコンサートにも積極的にたずさわっている。近刊論文「編集された「クレド」の神学――グノーシスとシューベルト」(『美学』第260号、2022年7月)、近著『わが友、シューベルト』(アルテスパブリッシング)。
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